現在のストレス社会において、夜なかなかよく眠れないという方は決して珍しくありません。

不眠等の睡眠障害は、総合失調症やうつ病等の精神的な病気に繋がる可能性があるので、単純に眠れないだけと軽く考えてはいけない身体の不調です。

「なかなか眠れない」「寝てもすぐに起きてしまう」というのは睡眠障害の中でも特に有名で、こうした症状についてテレビ番組やウェブページを見たことのある人も少なくないでしょう。

これに隠れて「入眠時幻聴(幻覚)」という症状があるのはご存知でしょうか。簡単に説明すれば「ものすごく怖い夢を見る」という症状です。

「たかが夢だ」と侮ってはいけません。

その「たかが夢」がじわじわと健康を蝕むこともあるのです。

 

入眠時幻聴(幻覚)での体験

そもそも「幻聴(幻覚)」とは、その場にないものがまるでその場にあるかのように生々しく見えたり聞こえたりすることをいいます。

統合失調症の急性期では、人に話し掛けられた気がしたけどそこに誰もおらず幻聴だった、壁の虫を退治しようとしたら幻覚だった、と言ったことがあります。

そのくらい現実味を持った聴覚・視覚的な現象が見えるのです。

入眠時幻覚・幻聴では、知らない人影が見える、誰かが窓から襲い掛かってくる、耳元で誰かがささやく、と言ったものを見ます。

字面だけで見ても恐怖感を感じるところだと思いますが、これを見ている当人はさらにすさまじい恐怖を感じ、悲鳴とともに飛び起きることもあります。

一度恐怖で目を覚ましてから「夢か」と安心してもう一度寝付くと、再び同じ入眠時幻覚を見てしまうことも珍しくありません。

これが何回も続くと「今日もまた怖い思いをするのか」という不安から睡眠を避けるようになり、不眠を助長することになります。

 

入眠時幻覚と負のループ

睡眠に問題を抱えたことのない人、また寝不足で悩んでいるため積極的に寝たい人にとっては「寝るのが怖い」という訴えはなかなか理解できるものではありません。

意を決して身近な人に相談しても「たかが夢だから気にするな」と言われれば、「怖がる自分が悪いんだ」と思わされます。

どの時間に働く職業であれ、しっかり寝て回復した健康体で働くことを求められていますから、眠れないことは焦りを生みます。

「寝るのが怖い」「でも早く寝なければ」「寝たらまた恐ろしい思いをする」「寝なければ仕事が出来ない」。寝るタイミングは毎日やってきてこうしたジレンマを繰り返します。

当然そのジレンマの背景には「健やかに眠ろう」という意志があり、当人はその意志に基づいて努力をしています。寝る何時間前からはパソコンやスマホを触らない、お風呂につかってゆっくりする、アロマをたく、ストレッチをする、ゆったりした音楽を流す、カフェインを控える。

そうした努力を重ねても、先ほどのようなジレンマに毎回苛まれます。これは「健やかに眠る」という努力がことごとく失敗に終わっているという事です。

これ以上はできないと言うくらいに勉強しているのに毎回試験は不合格、という体験を毎日毎日繰り返せば、どのような心持になっていくか想像に難くないでしょう。

「怖い夢を見るのは自分の努力が足りないんだ」と思っていたのが、「自分の努力は無駄なんだ」に変わり、「もうだめだ」と絶望してしまいます。

 

もしこれがうつ病の症状である場合は更に深刻です。

うつ病を発症する人の病前性格の傾向はよく知られているように、真面目で努力家です。そのため「努力をやめる」ということに罪悪感を抱きます。

眠れないのなら寝ようと頑張ることをやめてしまえばいいのですが、「頑張らない」という選択肢を持つことが出来ません。

結果として、入眠時幻覚に共感を得られないまま、寝ようとする努力を重ねるもそれは実らず、不眠を悪化させてさらに心身の健康を失っていくという負のループに陥ります。

 

心理的な原因

では、そもそも入眠時幻覚で恐い夢を見る心理的な原因は一体何なのでしょうか。

人によっては夢の内容を話しても「それって怖い夢なの?」と思う人もいるでしょうが、実のところこれは本人にとってもそうだったりします。

ですが夢の中でそれを体験すると、何故か異様なほどの恐怖を感じるのです。

それは何故かというと、その恐怖は実際に夢の中で起こっていること自体というよりも、現実の問題に対して抱いている恐怖が具現化されたものだからです。

つまり、上で挙げたようなタイプの人で言えば、頑張り続けても実を結ばないことに対しての恐怖と頑張らない自分に対しての恐怖の両側面からの恐怖が、夢の中で形を変えて襲ってきているのです。

これでは頑張っても駄目、頑張らなくても駄目、でどうすることもできず、完全に心理的板挟み状態ですよね。

ですから、恐怖を感じているのは夢の内容ではなく現実の恐怖そのものに対して、と考えたら良いでしょう。

 

人間というのは、心に蓋をすることで現実に感じる恐怖を閉じ込めて生きることができます。

これは防衛本能の一種なので悪いことではないのですが、入眠時幻覚を発症するようになると睡眠時はその防衛本能が働かなくなってしまいます。

つまり、普段無意識的に抑え込んでいる恐怖がそのまま襲い掛かって来るようになるのです。

 

対策は「寝る努力」を認めること

入眠時幻覚の怖い夢に悩まされている方々に、非常にお勧めしたい対策があります。

頭が痛い、お腹が痛い。その痛みは自分でコントロールできるものではありません。

多くの場合薬の力を借りて痛みを和らげ、コントロールします。

人間の体の中で自分でコントロールできる部分は意外なほど少ないのです。

入眠時幻覚が生じた時点で、睡眠はすでに自分のコントロール下にありません。頭痛や腹痛同様に何かの助けを借りる必要があります。

そもそも他の人が感じ得ない恐怖を感じるというのは、それだけ直面する問題と真向から向き合っている証拠であり、その時点で立派な症状なのですから、堂々と治療にあたっていいのです。

「眠る事すらできなくなった」と無力感でいっぱいの人は、それまで眠る努力を精一杯に続けてきたのでしょう。

そういう人には薬の処方だけでなく、これまでに続けてきた寝るための「努力」を認めることが必要です。

 

結局、自分に対して努力を認めることは頑張らないことに対しての恐怖の克服に繋がるので、その時点で心理的板挟み状態(頑張り続けても実を結ばないことと頑張らないことに対しての恐怖)から抜け出すことができます。

明らかに頑張り続けても身を結ばないのであれば、頑張ることを堂々とやめたら良いのです。それができれば、恐怖という苦しみから解放されるはずです。

もう一つ加えると、そもそも「立派であるべき」という価値観も、間違っていますから捨ててください。

勘違いしてもらいたくないのですが、これは諦めや逃げではなくて、前進であり、成長です。本当に成果を上げる人というのは、自分が好きでやっています。

気持ちの逃げ道がなくて半ば強制的に努力しているわけではないのです。

実際、心理的板挟み状態から解放されて自分的には頑張りをやめたとき、逆に物事がうまく行き始めるというのは本当によくある話です。

ただしそれを期待してやめるような打算的な気持ちがあるとまたうまくいかなかったりするので、素直に自分自身に対して認めてあげる気持ちをひたすら意識するようにしてください。

 

最後に

人生の恐怖や苦しみは、自分の心の整理がついていないことで不必要に生み出しているケースがほとんどです。一度冷静になり、一歩退いて考えると活路は意外とシンプルであったりします。

もちろん思い癖が強くなってしまっていて恐怖を簡単に克服できないケースはうつ病と同様、医者に掛かり薬を処方するのは必須ですが、それと同時進行で自分を認めてあげる心を育む努力をすることをお勧めします。

医者に掛かりうつ病を認めるというのも、克服のための大きな前進の一つであることを理解してくださいね。